借金を背負って返済が出来ない場合、「任意整理」や「個人再生」など債務整理をしてコツコツ返済する方法があります。
しかし、任意整理や個人再生をしたとしても毎月の返済ができない場合、残る選択肢は「自己破産」ということになります。
一般的に自己破産と聞くと、借金もなくなって人生のやり直しができる…というイメージがありますが、当然自己破産にはデメリットもあります。
今回の記事では、あらためて自己破産の基本的な知識やメリット・デメリットについて、詳しく解説していきたいと思います。
自己破産とは?
自己破産とは、裁判所の決定を受けて「借金をゼロ」にする債務整理方法です。
ただ、誰でも自己破産ができるかどうか…というとそうではなく、裁判所が「借金を返済するのが事実上無理である」と判断した場合にかぎります。
自己破産の申し立てをすると、借金の額と毎月の生活費を裁判官が判断し、借金の返済により基本的な生活もままならない…と判断すれば破産を認めてもらえます
ちなみに、この後触れますが自己破産で借金がなくなるのは、破産手続きが開始されて「免責決定」がおりた場合です。
自己破産の手続き開始だけでは借金はなくなりませんので、覚えておきましょう。
自己破産から免責決定までの流れ
以下が自己破産の手続き開始から免責決定までの流れです。
ちなみに、弁護士に自己破産の相談を開始して免責決定が下りるまでには、おおよそ3ヶ月~6ヶ月程度かかります。
弁護士への依頼と受任通知
自己破産をする場合にまずやるべきことは「弁護士への相談」です。
弁護士に相談する場合は、基本的に30分5,000円の相談料がかかりますので、その点は覚えておきましょう。
また、相談後に正式に弁護士に自己破産手続きを依頼することになると、弁護士から債権者へ弁護の依頼を受けたことや債権調査依頼を知らせるために「受任通知」が発送されます。
この時点で、債権者は債務者へ直接連絡をとったり取り立てをおこなうことが禁止されますので、取り立てに苦しんでいる人は、ひとまず普通の生活を取り戻すことができます。
破産申し立て
弁護士への相談が済んだら、おおよそ自己破産できるかどうかの検討がおこなわれ、必要書類を用意して裁判所で破産の手続きがおこなわれます。
なお、必要書類は裁判所によって若干の違いはありますが、以下の書類を用意する必要があります。
【自己破産手続きに必要な書類】
本人を証明する書類 | 戸籍謄本 住民票(本籍記載のもの) |
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債権者がわかる書類 | 債権者一覧表 |
財産や収入を証明する書類 |
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裁判に必要な書類 | 破産手続き開始、および免責申立書 陳述書 |
その他 | 申し立て費用(収入印紙)、印鑑、筆記用具など |
なお、これらの必要書類を用意して裁判所に破産申し立て書が提出されたあと、約1ヶ月後に裁判官による面接がおこなわれます(審尋といいます)
この審尋では、債務者が直接裁判官から質問され、自己破産の申し立てに至った経緯や、なぜ自己破産をしたいのか…などということを聞かれます。
もちろん、弁護士に依頼した場合は、審尋は弁護士が対応することも可能です。
破産手続き開始
裁判官による審尋が無事完了すると、約1週間後に破産手続き開始決定が出ます。
なお、破産手続きが開始されたあとは財産がある場合とない場合で、手続きの内容が変わってきます。
破産管財人が選任されて、管財人の報酬を支払う必要がある。
ちなみに、ここで言う「財産」とは、以下のようなケースを指します。
- 99万円以上の現金
- 20万円以上の資産(預貯金、自動車、生命保険、株券、破産者名義の土地や建物)
免責決定
上記の破産手続き開始決定が出てから、約2ヶ月後に免責手続きがおこなわれます。
この免責手続きでは、裁判官が債務者の財産や家計収支状況を見て「借金をゼロにしても問題がないか」ということが検討されます。
免責手続きのなかでは、免責審尋といって裁判官との面接がおこなわれますが、とくに問題がなければこの面接は1回で終了します。
ただし、財産隠しなどが発生すると手続きが長引くことになります。
すべての手続きが完了すると、免責審尋から約1週間後に裁判所から「免責許可決定」が出て、そのあと1~2ヶ月後に免責許可決定が確定します。
この時点ではじめて借金返済の義務がなくなります。
自己破産のメリットやデメリット
自己破産の基本的な手続きの流れは以上のとおりですが、自己破産のメリットやデメリットについて、あらためて整理しておきたいと思います。
メリット
自己破産のメリットは、なんといっても「免責決定を受ければ借金がゼロになる」という点に尽きるでしょう。
また、弁護士に正式に委任した時点で債権者からの厳しい取り立てもストップしますので、安定した生活を取り戻せるというメリットもあります。
また、弁護士に依頼する費用がない場合には、弁護士での手続き開始から免責決定までの間に積み立てをしておくことも可能ですので、手続きに時間がかかる分、ほかの債務整理方法よりは弁護士費用を工面しやすい…というメリットもあります。
デメリット
一方デメリットについは、以下のような点があげられます。
とくに、家族が居て持ち家などを保有している場合は、自宅を手放して賃貸住宅などに移り住む必要がありますので、家族に迷惑がかかる…という点が最も気になるところです。
自己破産すると車もなくなるの?
さきほども触れたとおり、自己破産をする場合は20万円以上の財産を持っている場合は、それを手放す必要があります。
この20万円以上の財産には保有している自動車も含まれますので、車の査定額が20万円以上あるなら手放して返済に充当する必要が出てきます。
ただし、自動車購入時にローンを利用していて車の査定額よりもローンの残債が上回っている場合は、裁判所の判断のうえでそのまま車を乗り続けることが認められるケースがあります。
(ただし、ほとんどのケースではローンを利用する場合車に担保設定があったり、車の名義がカーディーラーになっているケースが多いため、乗り続けることは困難です)
なお、自己破産を検討している段階で、自動車残すために車の名義を家族の誰かや知人に変更するやり方は正直おすすめできません。
最悪のケースとしては「財産隠し」と見なされて、法律違反になることも考えられますので、もし名義変更する場合は、正式な手続きを踏んで売買代金をやり取りするようにしたほうが無難です。
免責にならないケースとは?
なお、自己破産を申請してもすべての人に免責決定がくだされるわけではありません。
たとえば以下のようなケースでは免責許可決定はおりません。
自己破産に必要な費用
自己破産を申請する場合、弁護士費用や裁判所への手続き費用が必要ですが、とくに財産もなく債権者が5社以内なら、20万円~30万円程度の費用で手続きは完了します。
ただ、債務者が財産を保有していたりすると、それらの財産処分に必要な手続き費用や破産管財人の報酬が必要になってきますので、上記の費用に加えて15~20万円程度は覚悟しておいたほうがいいでしょう。
なお、さきほどもお伝えしたとおり、自己破産の手続きには時間がかかりますので、以下のように弁護士受任通知から破産申し立ての間に弁護士費用を分割で支払うことも可能です。
【弁護士費用20万円を分割で支払う場合のイメージ】
月 | 支払い額 |
---|---|
1月:相談 | 相談料5000円のみ |
2月:受任通知 | ¥0 |
3月~9月:手続き準備 | 20万円を毎月分割で支払う |
10月:破産申し立て | 支払い完了 |
なお、費用の支払い方法については弁護士事務所によっても対応が異なります。
「思わぬ弁護士費用で驚いた」ということにならないように、費用については相談時点で弁護士と綿密に打ち合わせしておくことをおすすめします。
自己破産は個人でも手続き可能?
ちなみに自己破産は弁護士をとおさなくても、手続きそのものは個人でもおこなえます。
しかし、自己破産の手続きにはある程度法律の知識も必要ですし、裁判所でおこなわれる審尋などにもすべて自分が出席する必要が出てきます。
また、通常弁護士に依頼すれば債権者からの連絡はストップしますが、自己破産を自分でおこなうとなれば自分で債権者と連絡をとりあう必要も出てきますので、かなりの精神的負担も発生します。
弁護士費用は高いため「自分で手続きできないか」と考える人も多いようですが、手続きを完璧に済ませることや、裁判所や債権者との対応時間を考えると、最初から弁護士に依頼したほうが賢明と言えます。
人生をやり直せる自己破産
自己破産にはそれなりのデメリットもありますが、ほとんどのケースでは勤務先にも知られることなく免責決定を受けることができます。
現在、借金返済で自転車操業に陥っているなら、迷っていないでまずは弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士への費用は必要ですし自己破産のデメリットもありますが、何年間も借金に苦しめられるよりはずっとましです。
自己破産は人生をやり直せるチャンスです。